この曲を、氷河期世代への鎮魂歌として聴いています。
かなり個人的な読みですが、最後まで付き合ってもらえると嬉しいです。
捨てたメモが意味するもの
要らないと思って捨てた
1枚のメモ用紙
そこに書かれた数字が
今になって必要だったパスワード
最初は「うっかりミス」の話に見える。
でも、捨てたのは、紙じゃないと思うんです。
履歴書かもしれない。ある選択かもしれない。
あの時「仕方なかった」と流したことが、あとになって、入場券だったと気づく。
あの感覚です。
就活、結婚、タイミング。
致命的だったとわかるのは、いつも、後からなんですよね。
縮尺のズレた設計図
縮尺のズレた未来を書き記す設計図
学歴→就職→結婚という標準ルートは、確かに存在していた。
でも、90年代後半から2000年代に社会へ出た世代にとって、その設計図は、どこかサイズが合っていなかった。
図面はあった。ただ、現実の縮尺と、違った。
Oh 落差は拡がる一方 Oh
理想郷からどれくらい離れた?
「理想郷」の正体は、たぶん特別な夢じゃない。
結婚、マイホーム、正社員。
ひと世代前なら「普通」に届いていたもの。それが、最初から遠い場所に置かれていた。
落差、って書いてあるけど、これ、ほとんど格差の話ですよね。
読むたびに、そう思います。
招かれてなかった宴
招かれてなかった宴
後日にあがったキラキラの静止画
ううっ、これ、きつい。
バブルの余韻、IT期の成功者たち、SNSに並ぶ、うまくいってる人の写真。
そこに、自分はいない。
でも、後から見せられる。
見なきゃよかったと思いながら、つい見てしまう。これ、僕もあります。
しかも「なぜ参加できなかったのか」を考える前に、「努力が足りなかったんじゃないか」という答えを、外から先に押しつけられる。
きついですよ、ほんとに。
そして、壁の向こうから「喝采」が聞こえる
この曲のタイトル、正式には「Nowhere Man ~喝采が聞こえる」です。この「喝采」が、サビの核心なんですよね。
喝采が聞こえる
あの日塞がれた穴から
ぎゅっと耳を押し付けると
微かに響いてるよ
塞がれた穴の向こうから、聞こえてくるのは、ただの音じゃない。
喝采です。
拍手喝采。誰かが、賞賛されている音。
招かれなかった宴の、その壁の向こうで、誰かが讃えられている。拍手を浴びている。
自分は、中には入れない。
耳を「ぎゅっと押し付ける」と、微かに。——いっそ、何も聞こえなければ、諦められたかもしれない。
でも、聞こえてしまう。
だから、完全には諦めきれない。この諦めきれなさが、Nowhere Manのいちばん苦しいところだと思います。
そして、この「喝采が聞こえる」のサビ、2回目で少し変わるんです。
喝采が聞こえる
いつかこじ開けた穴から
覗いてみれば懐かしい
面影も感じるよ
1回目は「あの日塞がれた穴から 耳を押し付ける」。聞くだけだった。
でも2回目は「いつかこじ開けた穴から 覗いてみれば」。
塞がれていた穴を、自分でこじ開けて、覗いている。
受け身が、わずかに能動になっている。
しかも覗いた先にあったのは、嫉妬や絶望じゃなく、「懐かしい 面影」。
壁の向こうは、見知らぬ別世界じゃなかった。
ここ、地味だけど、大きな変化だと思います。
「一生ずっと」という固定感
きっと 一生 ずっと
この言葉が、何度も繰り返されます。
そして、そのたびに、後ろの言葉が変わる。
「空回る」「彷徨う」「勘違い」、そして最後は「ひとりぼっちの」Nowhere Man。
時間は、進んでいる。でも、状況だけが、更新されない。
出口がないというより、そもそも入口に辿り着けなかった、という感覚。
やり直しが効かない、という感覚です。「一生」「ずっと」という言葉の重さが、その固定感を、ぐっと押し下げてくる。
いちばん好きな一節
いつも違和感だけがして
誰にも溶け込めなくて
そんな自分も苦じゃなくて
寧ろ居心地が良かった
産声の全歌詞の中で、ここが、いちばん好きです。
諦めと、受容。溶け込めない自分を、もう苦にしない。
むしろ、居心地がいい、とまで言う。
この感覚、分かる人には、分かると思います。諦めきった先にある、奇妙な安らぎ。
それでも、なぜか元気が出る
この曲、むちゃくちゃ元気もらえますよね。
歌詞をよく読むと、相当きついんですよ(笑)。
良いことは、ほとんど書かれていない。
「がんばれ」という言葉は、一個もない。でも、何だこの妙な励まし感は、って思う。
たぶんそれは、状況を、正確に書いてくれているからだと思うんです。
「こんな気持ち、自分だけじゃなかったんだ」という、あの感覚。
「あなたの気持ち、わかります」じゃなくて、「そういう人間が、ここに確かにいる」という、静かな肯定。
そして、その「確かにいる」を、この曲は、たった一行の数字で証明します。
170cmと36.5℃の体温で
きっと 一生
ずっと 彷徨う Nowhere Man
Nowhere Man——どこにもいない男。
社会の地図には、印がない。招かれた宴にも、いない。
なのに、170cmの身長があって、36.5℃の体温がある。
いない、と名乗りながら、こんなにも、いる。
どこにもいない男は、本当は、ちゃんと、ここにいた。
それを、塞がれた穴の向こうから、そっと教えてくれる。
それだけで、どこかに届く歌に、なっているんですよね。