『ウスバカゲロウ』。
アルバムの中に、こういう曲を何食わぬ顔で入れてくるからMr.Childrenファンをやめられない。
一聴すると、わりと地味な失恋ソング。
『名もなき詩』や『HANABI』のような、誰が聴いてもすぐ分かるキラーフレーズがあるわけでもありません。
でも、こういう曲こそ危ない。
聴いた直後より、何日かたってからじわじわ効いてくる。
昔でいうなら『渇いたKISS』のような、アルバムの中で静かに待ち伏せしているタイプの曲。
「これは名曲だなあ」と気持ちよく聴いていたのですが、歌詞を追ってみると、意外と容赦がありません。
この曲は、別れた相手を忘れられない歌である以上に、
大切なものを大切にできなかった、昔の自分と向き合う歌
なのだと思います。
失くしたのは、サングラスだけではない
大事にしてたサングラスを 失くして
見つかんなくて
君といた夏の記憶が また少し萎んだ
曲の中には、失くしてしまったサングラスが出てきます。
ただ、主人公が惜しんでいるのは、物そのものではなさそうです。
そのサングラスには、君と過ごした夏の記憶がくっついていた。
だから物を失くしたことで、あの夏まで少しずつ遠ざかっていく。
人間は不思議なもので、昔のことを思い出すとき、出来事だけではなく物に頼っています。
昔使っていた財布。
旅行先で買ったどうでもいい置物。
今なら絶対に着ないTシャツ。
物自体に大した価値はなくても、それを見れば、その頃の空気まで戻ってくる。
失ってから気づく。
よくある話です。
そして、よくあるからこそ痛い。
恋は、大事件より小さなズレで壊れる
二人の関係は、劇的な裏切りによって終わったわけではありません。
薔薇色だった日々は
あまりにも簡単に
ほんの小さなボタンの掛け違いから
粉々に壊れた
ほんの小さなボタンの掛け違いから、薔薇色だった日々が壊れていく。
ここも妙に現実的です。
恋愛が終わるとき、必ずしも大きな事件が起きるわけではありません。
言い方が少し悪かった。
話を聞くタイミングを間違えた。
謝ろうと思ったけれど、なんとなく翌日に延ばした。
その翌日も、また延ばした。
僕にも昔、どう考えてもこちらから謝ったほうが早いのに、「向こうにも悪いところはある」と意地を張って、数日間ほとんど口を利かなかったことがあります。
最初は少し腹が立っていただけ。
でも三日もたつと「今さら普通に話しかけるのも負けたみたいで嫌だ」という、まったく別の問題になっていました。
もう何の喧嘩だったのかも曖昧なのに、意地だけは新鮮なまま残っている。
人間関係を壊すのは、案外こういうしょうもない意地なのかもしれません。
「自分は間違っていない」と思うしかなかった
この曲で、個人的に一番苦しいのはここです。
耳を塞ぎたいような言葉を投げ合って
「でも自分は間違っていない」と思わなきゃ
心を守る手立てがなくて
これは、かなり身に覚えがあるリスナーの方もいるんじゃないでしょうか。
喧嘩をしている最中は、正しいかどうかより、負けないことのほうが大事になってしまう。
本当は「言いすぎた」と気づいていても、今さら引っ込められない。
引っ込めたら、ここまでの自分が全部間違っていたことになる気がする。
なので、さらに言い返す。
そして余計に悪化する。
あとになって思い返すと、「あそこで一言ごめんと言えば終わっていたのでは」と気づきます。
でも、その一言が言えなかった。
その程度のことができなかった自分を、何年かたってから思い出して恥ずかしくなる。
この曲がえぐってくるのは、たぶんそういう傷です。
なぜタイトルが「ウスバカゲロウ」なのか
ウスバカゲロウは、アリジゴクの成虫です。

幼虫の頃は砂の中にいて、獲物が落ちてくるのをじっと待っています。
この曲の主人公の姿と重なります。
夜になると後悔が膨らみ、頭の中では昔のことをグルグル考える。
前に進まなければと思いながら、過去にしがみついている。
まるで、地中から出られないアリジゴクのようです。
ラストは“強くなる”んじゃなく、弱いまま飛ぶ
そんなアリジゴクが最後に歌詞はこう変わります。
透明の羽開いて
ここ、本当に美しい。
前半では「羽たたんでる」だったものが、最後には「羽開いて」になる。
でも大事なのは、主人公が急に強くなったわけじゃないこと。
今日をゆらゆらとよろけながら
懸命に飛び立ちたい
とあるように、まだ揺れてる。まだ弱い。まだ未熟。
それでも飛ぶ。
この曲のすごさって、後悔を消して前に進むんじゃなくて、後悔を抱えたままでも飛び立てると描いているところだと思うんです。
人って、完全に整理がついてからじゃないと前に進めないわけじゃない。
むしろ、傷を抱えたままよろけながら進むことの方が多い。
そんな人間の弱さが、このラストにはあります。
おわりに
『ウスバカゲロウ』は、恋を失った歌です。
であると同時に
格好の悪い再出発を、静かに肯定してくれる曲なんだと思います。
しかし、これをアルバム曲としてさらっと入れてくるのは、やはり怖いです。
最初は地味に聴こえる。
でも気づいたら、こちらの過去まで勝手に掘り返されている。
まさにアリジゴク。
一度落ちたら、なかなか抜け出せない曲です。
あわせて読みたい
- キングスネークの憂鬱
- Again
- Saturday
- ウスバカゲロウ
- Glastonbury
- 禁断の実
- 平熱
- 空也上人
- Stupid hero
- Nowhere Man ~喝采が聞こえる
- 産声
- Umbrella
- 家族
よく読まれている記事
- 終わりなき旅は頑張れソングじゃない
- しるしは恋愛の歌じゃなと思う
- HANABIは希望の歌じゃない気がする
- Signはなぜ泣けるのか
- 顔のわりに小さな胸の謎
- シーソーゲームが古くならない理由
- Againは静かな応援歌
斜めから読む
まとめてみた
全267曲調べてみた(NEW!新シリーズ)