意味
アルバム『産声』発表後、ついに放たれた新曲「Again」。
桜井さんはこの曲に「緊張感」「スピード感」「憂いと強さ」そして「希望」を込めたと語っています。
しかし・・・
僕はこの曲の根底に、残酷なまでの「日常」を感じました。
まるで「LOST」で歌った「鏡」を突きつけられたような、そんな感覚です。
歌詞解釈
期待しないという生き方
期待しない方が利口です
明るくない将来はお見通し
極力深入りせぬよう
関係を保とうと努めた 何にしたっていつだって 傷つくだけ
静かに傷つくだけ
冒頭から容赦がありません。
ここで描かれているのは、傷つかないように学習してしまった大人です。
若い頃は、期待することで前に進めた。
でも今は、その期待が裏切られた時のダメージを、もう知っている。
だから最初から踏み込まない。
将来も、関係も、ほどほどの距離で保つ。
賢くなったようで、
実はただ身をすくめているだけ。
ベランダのサーフボード:死蔵された情熱
ベランダにサーフボードは眠ってる ここ4、5年 ビーチは未踏の地 疲れ引きずる週末は 苛立ちを解放しようもなく ひたすら焦ってる
サーフボードは、かつて自分を熱くさせた「アイデンティティ」の残骸。
それを捨てられないのは、まだ自分を諦めたくないから。
でも、週末になれば疲れ果て、ビーチに向かう気力など一滴も残っていない。
「いつか」という言葉が、希望ではなく「自分を誤魔化すための麻酔」に変わっている。
人生は「塗り潰し作業」になりがちだ
毎日を 塗り潰すだけ がむしゃらに塗り潰すだけ
実際は 空っぽになるだけ 心が空っぽになるだけ
「塗り潰す」という言葉の選択が実に残酷です。
カレンダーの枠を埋める。
ToDoリストを消す。
月曜から金曜までを黒く塗りつぶす。
それは「積み上げ」ではなく、「なかったことにする作業」に近い。
この1行、ほんと毎日働く社会人にブッ刺さる。
まるで「未来」を聴いているよう。
「お宝」と「君」:モノクロの世界に残った、唯一の色
胸の中で光ったお宝 そっとそっと 仕舞った
おおっ、ここで初めて「お宝」という、ミスチルらしい純粋な言葉が登場します。
この「お宝」は、かつての「希望」「夢」のメタファー。
大事なのは、
それを“仕舞った”という事実です。
なぜ?
おそらく壊したくないから。失いたくないから。
大切なものほど、人は深く隠します。
「いつになく笑っていれたかな?」 そんな僕も存在してたっけ?たっけ? 優しい気持ちになれた日は 君が 君が、、
そして、そのお宝を光らせるスイッチが「君」という存在。
「君」が恋人なのか、家族なのか、あるいは「かつての自分自身」なのか。
それは聴き手に委ねられています。
「いつになく笑っていれたよな」
そんな日が訪れるように
祈って祈って
胸の中にしまったお宝
そっとそっと 今日も優しく光った
最後、変化が起きます。
「仕舞った」お宝が、優しく光る。
世界が「塗り潰し作業」で塗り固められる中で、「君」がいる瞬間だけ、その上から鮮やかな色が上書きされる。
この色彩の変化こそが、この曲の救いです。
音楽について
「洗練された音だなぁ」と思ったらなんと、小林武史氏、山本拓夫さんや四家卯大さんがレコーディングに参加したとの事。
ブラス隊やピアノは主張しすぎず、横で呼吸している感じがいいですね。
ドラムは打ち込みと生が入れ替わり、落ち着かない日常みたいに響く。
サウンドは新しくもありつつ、どこか「ポケットカスタネット」に似てるなぁと感じました。
最後の転調がいいですねぇ。
さいごに
タイトルの『Again』。
虚しい毎日。
それでも、やり直すだけ。
そこにあるのは、「頑張ろう」という高らかな決意ではなく、「それでも、まだ心が死んでたまるか」という、静かで執念深い、大人の抵抗。
理由なんてなくていい。
意味がなくても、もう一度。 胸の奥に仕舞った「お宝」が、今日も優しく光っている。
それだけで、僕たちはまた明日、満員電車に乗れる。
『Again』は、そんな僕たちのための、最も切実な「再出発の歌」なんだと思います。