
12月のある夜、僕は気づいてしまったんです。
山下達郎「クリスマス・イブ」、B'z「いつかのメリークリスマス」、松任谷由実「恋人がサンタクロース」…
そして——ミスチル。
「……あれ?」
30年分のアルバムを脳内で高速再生してみたんですけど、出てこない。一曲も。
Mr.Childrenには、デビュー以来30年以上、クリスマスソングが一曲もないんです。
「そんなバカな」と思うかもしれません。
でも本当にないんですよ。
日本を代表する国民的バンドが、「毎年確実に売れる」「街中で流れ続ける」あのクリスマスソングを、一度も作っていない。
なぜなんでしょうか?
消された「クリスマスの夜に」
まずは、こんな話から。
名曲「抱きしめたい」。あの"震えそうな夜に"という冒頭、実はもともと違ったんです。
"クリスマスの夜に"
そう、最初はクリスマスソングとして生まれました。
でも、プロデューサー小林武史氏の提案で、クリスマス要素は削られたと言われています。
"震えそうな夜"に書き換えられ、季節を問わない普遍的なラブソングになった。
ところが——。
2005年と2009年の東京ドーム公演で、桜井さんは突然こう歌いました。
「クリスマスの夜に」と。
まるで封印していた記憶を、一瞬だけ解き放つように。
つまり、桜井さんの中には確かに「クリスマス版」が存在していたんです。
でもCDには残さなかった。
これが最初の選択でした。
デビュー前に封印された3曲
さらに不思議な事実があります。
メジャーデビュー前、ミスチルはクリスマスソングを3曲も作っていたんです。
「2日遅れのクリスマス」「Merry Merry Christmas」「Jen's Christmas」。
それなのに、メジャーデビュー後は? ゼロ。
30年間で一曲も作っていません。
普通に考えて、おかしくないですか?
アーティストにとって、クリスマスソングほど「おいしい」ジャンルはない。
毎年12月になれば勝手に再生回数が跳ね上がる。
CDショップの特設コーナーに並ぶ。
カフェやショッピングモールで流れ続ける。
印税が毎年チャリンチャリンと入ってくるんですよ。
なのに、作らない。
ここには、明らかに強い意図があります。
「Melody」に隠された、たった一度のクリスマス
30年間で、"クリスマス"という言葉が出てくるミスチルの曲は、ほとんどありません。
わずかに「Melody」で、こう歌われます。
見飽きたこの街が クリスマスみたいに光る
でもよく読んでほしい。これ、12月24日の話じゃないんです。
恋をした瞬間、普段の街がキラキラ輝いて見えるという、心の状態の比喩なんですよね。
桜井さんにとって、クリスマスは「特別な日」じゃない。
「特別に見える瞬間」の象徴でしかないんです。
「水上バス」で消えたクリスマス
桜井さん自身が、こんなことを語っています。
メロディができた。アコースティックな雰囲気も整った。
本人の中では"クリスマス"をイメージしていたんです。
なのに、最終的にクリスマスの歌にはならなかった。
桜井さんは笑いながらこう続けます。
またしても、外した。
まるで、意図的に避けているかのように。
クリスマス番組で起きたこと
ここが、この話の核心です。
2007年12月23日。「ハッピーXmasショー」というクリスマス特番がありました。
会場は華やかなクリスマスの装飾。
出演者たちは次々とクリスマスソングを披露していく。
視聴者も、当然ミスチルがクリスマスソングを歌うと思っていた。
そこで桜井さんが歌ったのは——
「ひびき」
会場は一瞬、戸惑ったかもしれません。
でも桜井さんは、こう言ったんです。
この発言、ものすごく重い。
クリスマスは、街が勝手に作り上げた「幸福の日」です。
イルミネーションが輝き、カップルが寄り添い、家族が集まる。
「メリークリスマス」という言葉が、当たり前のように飛び交うんですよね。
でも——。
その光が届かない場所にも、人はいる。
ひとりで部屋にいる人。
大切な人を失ったばかりの人。
「メリークリスマス」と言える相手がいない人。
街のキラキラした光が、逆に心をえぐってくる人。
桜井さんは、そんな人たちを置き去りにしたくなかったんです。
だからあえて"クリスマスソングではない歌"を選んだ。
これが、桜井和寿という人なんですよ。
ファンが作る「クリスマスソング」
面白いことに、ミスチルファンの間では逆に「クリスマスに聴きたい曲」が議論されます。
「365日」「抱きしめたい」「十二月のセントラルパークブルース」。
中には「ニシエヒガシエが最強のクリスマスソングや!」という猛者もいる(笑)。
つまり、曲の側が日付を決めるんじゃなくて、聴く側が特別な日にするんです。
これこそが、桜井さんが理想としてきた姿なんじゃないでしょうか。
30年間、貫かれた「優しさ」
振り返ってみると、すべてが繋がっていきます。
これは全部、偶然じゃないんです。
"特定の日のための歌"を作らないという、一貫した価値観。
桜井さんは、こう考えてきたんだと思います。
「みんなが幸せとは限らない日に"幸福"を押しつけない」
「特別な日は、カレンダーが決めるんじゃない」
だからミスチルには、30年間クリスマスソングがない。
それは欠けているのではなく、桜井和寿が守ってきた"優しさの形"なんです。
PS: 矛盾した本音
ここまで書いといてあれなんですが、本音を言うと——
桜井さんが本気を出して作ったクリスマスソングを、死ぬほど聴きたい(笑)。
街のスピーカーから流れてくるミスチルのクリスマスソング。
テレビのクリスマス特集で何度もかかるミスチル。
「今年もこの季節が来たな」と思わせてくれるミスチル。
最高じゃないですか。
でも、それを30年間作らなかったっていう事実が、逆に桜井さんらしいんですよね。
売れるとわかっていても、手を出さない。
それが、この人の美学なんだと思います。