Mr.Children歌詞解釈記

ミスチルファン歴30年。

「なんでこれシングルじゃないの!?」——ミスチル「つよがり」歌詞解釈

「なんでこれシングルじゃないの!?」

ザ・ピロウズの山中さわお氏が叫んだ言葉です。

僕も同じことを思いました。

「いや、これ普通に売れるやつじゃないの?」って。

……でも、最後まで読み解くと、逆に分かるんです。

なぜこれがシングルじゃない場所に、そっと置かれているのか。今日はそれを書きます。

始まりは「告白」じゃなく「観察」

冒頭、重たいピアノと一緒に始まるのが、「告白」じゃなくて「観察」なんですよね。

凛と構えたその姿勢には
古傷が見え
重い荷物を持つ手にも
つよがりを知る

普通のラブソングだったら、ここで気持ちをぶつけにいくはずなのに、この曲はずっと距離を保ったまま見ている。

背筋を伸ばしてるその裏に、ちゃんと傷があること。

荷物を持つ手が、ほんの少しだけ無理してること。

それを見抜いてしまう。

タイトルの「つよがり」は、まずここで、彼女のものとして出てきます。

重い荷物を、平気な顔で持つ彼女。

でも、これがラストで裏返るので、覚えておいてください。

サビに「蚊」を置く度胸

蚊の泣くような頼りない声で
君の名前を呼んでみた

ここ、何回聴いてもハッとするんですよ。

サビで一番盛り上がるところに「蚊」。

普通なら絶対避ける言葉なのに、あえてそこに置く。

彼女のことはあんなに見えているのに、いざ声をかける段になると、自分が急に小さくなる。

「自分なんかが呼んでも、届かないんじゃないか」っていう、あの感覚。

その全部を「蚊の泣くような」で片付けてしまう。

そしてこの1番のサビ、最後がこう締まります。

「向き合ってよ 抱き合ってよ 早く」。早く。

焦ってるんですよね、この人。蚊みたいな声のくせに、心の中では「早く」と急いでる。

「優しいね」の残酷さ

「優しいね」なんて 買被るなって
怒りにも似ているけど違う

この「優しいね」、やっぱりちょっと残酷なんですよね。

表面上は褒め言葉なのに、どこかで線を引かれてる感じがする。

「あなたはいい人。でも、そこまで」みたいな。

そりゃ、引っかかる。

でも、怒れない。

相手の傷を知ってるから、責めることもできない。だから「怒りにも似ているけど違う」になる。

で、2番のサビの締めは、こう変わります。

「向き合ってよ 抱き合ってよ 強く」。

1番は「早く」だったのが、2番は「強く」。

焦りに、力みが加わってくる。

早く、強く。

彼はどんどん前のめりになっていくんですよ。

指すら、思うように動かない

愛しさのつれづれで
かき鳴らす六弦に
不器用な指が絡んで震えてる

ここ、完全に感情が溢れてますよね。

「つれづれ」って言葉がまたいい。

つれづれ草、教科書で習いましたよね。

そう、どうしようもなくて、持て余して、気づいたら考えてしまってる状態です。

愛しいのに、どう動けばいいかわからない。

だから、とりあえずギターを鳴らす。

でも、その指すら思うように動かない。

「早く」「強く」と気持ちは急くのに、体は震えて、ついてこない。この、心と体のズレが切ないんですよね。


そして、力むのをやめる

ラスト。ここで、この曲の本当の正体が出ます。

たまにはちょっと自信に満ちた声で

君の名を叫んでみんだ

蚊の泣くような声だった彼が、「叫んでみんだ」へ。

一見、ここが「成長」に見えます。小さかった声が、大きくなった、と。

でも、続きを読むと、そうじゃないんですよ。

あせらなくていいさ
一歩ずつ僕の傍においで
そしていつか僕と 真直ぐに 向き合ってよ 
抱き合ってよ 早く 強く あるがままで 
つよがりも捨てて

ここです。

1番は「早く」。2番は「強く」。

ずっと急いで、力んでいた彼が——最後に、その「早く」と「強く」を両方並べた上で、こう続ける。

あるがままで つよがりも捨てて」。

早くとも、強くとも言ってたのに、最後はどっちも手放すんです。

急ぐのをやめる。力むのをやめる。

「あせらなくていいさ」「一歩ずつ」と、自分が一番焦ってたはずなのに、急にスピードを緩める。

つまりこの曲、彼が前に出ていく成長物語じゃないんですよね。

彼が、自分の力みを捨てていく物語なんです。

早く→強く→あるがまま。だんだん、力が抜けていく。


つよがってたのは、どっちだ

ここまで来て、タイトルに戻ります。

「つよがり」。最初、これは彼女のものでした。傷を隠して、重い荷物を平気な顔で持つ彼女の。

でも、最後の「つよがりも捨てて」は、誰に向けた言葉なんでしょう。

表向きは、彼女へのメッセージです。

「つよがらなくていいよ、あるがままでおいで」と。

でも、よく考えると——一番つよがってたのは、彼のほうなんですよ。

彼女の傷を全部見抜いて、「優しいね」と線を引かれても怒らず、震える指でギターを鳴らして、それでも「早く」「強く」と急いでいた。

全部わかった上で、平気な顔で待ち続けていた。

それって、彼女のつよがりよりも、よっぽどしんどいつよがりじゃないですか。

「つよがりも捨てて」は、彼女に言いながら、たぶん、自分にも言ってるんです。

もう、急がなくていい。強がらなくていい。あるがままで、いい。

彼女に「あるがままでおいで」と言えた瞬間に、彼自身も、やっと力を抜けた。

見えてしまう人ほど、つよがる。

だってその傷を、自分が引き受けようとしてしまうから。

この曲は、そういう人が、ようやく肩の力を抜く歌なんですよね。


さいごに

で、最初の問いに戻ります。なんでこれ、シングルじゃないのか。

いや、売れはすると思うんです。

でも、なんか違う。

この曲は、一気に広がるタイプじゃない。

「早く」「強く」と盛り上げて終わる曲だったら、シングルでよかった。

でもこの曲は、最後に力を抜いて、「あるがままで」と着地する。盛り上がりきらずに、すっと肩の力が抜けて終わる。

その引き算の優しさは、シングルの派手さとは、たぶん相性が悪い。

じわじわ染みてくるタイプなんですよ。

だからこそ、アルバムの中にそっと置かれているのが、ちょうどいい。

……うん、こういう曲が、シングルにならずにアルバムに入っている。

その引き算も含めて、ほんとミスチルのつよさだと思います。