
「なんでこれシングルじゃないの!?」
ピロウズの山中さわお氏が言っていた言葉です。
僕も同じことを考えてたんです。
でも、なんでシングルにならなかったんでしょうか?
『つよがり』が、ひたすら優しいからと思います。
攻めてこない。寄り添うだけ。 それがこの曲の良さなんですよね。
今回はそんな名曲『つよがり』の歌詞をじっくりみていきましょう。
「凛と構えたその姿勢」── 観察から始まる愛
凛と構えたその姿勢には古傷が見え
重い荷物を持つ手にもつよがりを知る
重厚なピアノのイントロとともに、少し緊張感を持ち、曲がスタートします。
普通のラブソングなら、ここで「君が好きなんだ!」「君を愛してるよ」って自分の気持ちを叫びそうなもの。
でもこの曲は違う。
じっと、君を見ている。
相手を理解することから始まる愛。
”観察”こそがこの曲のスタートです。
「笑顔」という仮面── 見えない壁
笑っていても僕にはわかってるんだよ
見えない壁が君のハートに立ちはだかってるのを
この「見えない壁」がなかなか重いですね。
主人公に裏切られたとか、深く傷ついたとか。
その瞬間に、ガチャンと音を立てて鉄のシャッターが降りてきた。
ここではまるで鎧を着るように、弱さを見せまいと必死になる姿を描いています。
それはまるで古い城の城壁のように、外敵の侵入を防ぐために作られた壁。
笑顔の裏に隠された痛み。
それを主人公は見抜いている。
でも無理に壊そうとはしない。
この距離感が、この曲の優しさの核心なんです。
「蚊の泣くような声」── 距離感の繊細さ
蚊の泣くような頼りない声で
君の名前を呼んでみた
サビで「蚊の泣く」という言い回しがすごく繊細です。
これ何気に歌っていますが、すごいと思いますよ桜井さんの言葉選び。
普通サビで「蚊」というフレーズ頭に持ってこないですからね。
それをミリオンセラー常連のミスチルがやってのけた。それがすごい。
しかし、心に傷を負ってる人に声をかけるの、本当に難しいですよね。
大声で「大丈夫?」なんて聞いたら、相手は警戒して心を閉ざしてしまうかもしれない。
だから、聞こえるか聞こえないかギリギリの声で呼ぶ。
これは「聞こえなかったことにしてもいいよ」という逃げ道を用意してるんだと思います。
返事をしなくてもいい。
気づかないふりをしてもいい。
野良猫に近づく時のように、慎重に、優しく。
そんな愛し方を、この曲は歌っているんです。
「着かず離れず」なんて、もうどうでもいい
着かず離れずが恋の術でも
傍にいたいのよ
2番では主人公の心境が暴露されます。
世の中の恋愛マニュアルって、全部「相手を落とすためのテクニック」じゃないですか。
駆け引きとか、タイミングとか。
でもこの人は、そういう計算を全部捨ててる。
「術なんて知ったこっちゃない、ただそばにいたいんだ」という決意。
これは相手を「落とす」愛じゃなくて「支える」愛なんだと思います。
見返りを求めない、ただそこにいる愛。シンプルだけど、すごく深いですよね。
「優しいね」という言葉の、痛み
「優しいね」なんて買いかぶるなって
怒りにも似ているけど違う
「優しいね」って、褒め言葉のようで、実は距離を置く言葉なんです。
主人公は嬉しい反面、物足りなさを感じたはず。
なぜなら、これは単なる優しさを超えた感情だから。
愛情であり、情熱であり、痛みでもある。
それを「優しさ」という言葉で片付けられることへのもどかしさ。
震える指が奏でる、本当の音楽
愛しさのつれづれで
かき鳴らす六弦に
不器用な指が絡んで震えてる
言葉では気持ちを伝えられない。だからギターで伝えようとしてる。
でも愛しさのあまり、指が震えてうまく弾けない。
技術的に完璧なギターより、気持ちが込もって震えてるギターの方が心に響く・・・そんな感じでしょうか。
ここ「愛しさの」の部分で桜井さんの歌声がひっくり返りそうになるんです。
その声も感情の震えを表しているように響くのがいいですね。
「蚊の泣くような声」から「自信に満ちた声」へ
たまにはちょっと自信に満ちた声で
君の名を叫んでみるんだ
冒頭の「蚊の泣くような頼りない声」から、「自信に満ちた声」への変化。
これは願望に聴こえます。
いつもは遠慮して、聞こえるか聞こえないかの声で呼んでいる。
でもたまには、思い切り気持ちを伝えたい。
「叫んでみるんだ」──この「〜んだ」という言い方に、自分を鼓舞するような響きがある。
まだ叫べていない。
でもいつか、ちゃんと届けたい。君に、この気持ちを。
「待つこと」という究極の愛
あせらなくていいさ
一歩ずつ僕の傍においで
そして最後、この曲の答えが歌われます。
「あせらなくていいさ」
この一言に、全てが詰まってる気がします。
普通は焦ってすぐに答えを求めてしまう。
「僕のこと好き?」「いつ心を開いてくれるの?」って。
でもこの人は、何も変わらなくてもいいって言ってる。
ゆっくりでいい。亀の歩みでもいい。
でも僕はここで待ってる。
まとめ
以上、名曲「つよがり」について語らせていただきました。
『つよがり』が歌う愛のかたち。
それは──
相手を変えようとせず、ただ理解して、待ち続ける愛。
見えない壁も、強がりも、全部受け入れる。
そして焦らず、待つ。「着かず離れず」なんて術は捨てて、ただそばにいる。
桜井さんは、派手な愛の歌も書くけど、こういう静かな愛の歌もホント切なく響くんです。
シングルにならなかった理由は、きっと攻めてこないから。
キャッチーなサビや分かりやすいメッセージではなく、傷ついた心に静かに寄り添う曲だから。
でも、本当に傷ついた人の心に届くのは、こういう優しさなんだと思います。
本当名曲です。
というか神曲です。