
ザ・ピロウズの山中さわおさんが「なんでこれシングルで出さないの!?」って叫んで、のちにカバーまでしてしまった曲。
それがこの「つよがり」です。
シングルにならなかったのは、たぶんこの曲があまりに優しすぎて、「攻めてこない」から。
でもそれがこの曲の本質でもある。
「観察」から始まる愛
凛と構えたその姿勢には古傷が見え 重い荷物を持つ手にもつよがりを知る
普通のラブソングなら、ここで「好きだ」と叫ぶところです。
でもこの曲は、じっと「君」を見ている。
背筋を伸ばした裏に隠された古傷、荷物を持つ手のわずかな震え。
そこから彼女が必死に張っている「つよがり」を、そっと見抜いてしまう。
愛の始まりは叫ぶことじゃない。
この一行の解像度、本当に凄まじいと思います。
「蚊の泣くような声」という、圧倒的な自信のなさ
蚊の泣くような頼りない声で 君の名前を呼んでみた
サビの一番盛り上がる場所に「蚊」を持ってくる桜井さんのセンス、毎回脱帽します。
これ、優しさだけじゃないと思うんですよね。
彼女の古傷を見抜くほど想っているのに、いざ声をかけようとすると自分の存在がちっぽけに思えてしまう。
「僕なんかが呼んでも、びくともしないんじゃないか」という、消えてしまいたいほどの情けなさが、この「蚊」という一言に全部入ってる。
「優しいね」という残酷な拒絶
「優しいね」なんて買いかぶるなって 怒りにも似ているけど違う
「優しいね」って、実は残酷な言葉なんですよね。
「あなたは良い人だけど、私の奥までは入ってこないでね」という、透明なバリアを張っている。
すべてを受け止める覚悟でそばにいるのに、「優しさ」という便利な言葉で片付けられてしまう。
怒りのように湧き上がるけど、傷ついている彼女を責めることはできない。
「怒りに似ているけど違う」という表現の凄み、ハッとさせられます。
愛しさを持て余して
愛しさのつれづれで かき鳴らす六弦に 不器用な指が絡んで震えてる
「つれづれ」といえば、徒然草。
「することもなく、心が満たされずに物思いにふける」あの感覚です。
愛しくて愛しくて、でもどうすることもできなくて、ただ持て余している。
だからギターをかき鳴らすしかない。その衝動が指を絡ませて震えさせる。
カッコよく振る舞いたいのに、想いの方が身体を置いていく。
「叫んでみるんだ」という変化
たまにはちょっと自信に満ちた声で 君の名を叫んでみるんだ
冒頭の「蚊の泣くような声」から、最後は「叫んでみるんだ」へ。
今はまだ遠慮している。
でもいつかは胸を張って届けたい。
自分を奮い立たせるような、この変化がじわっと来ます。
あせらなくていいさ 一歩ずつ僕の傍においで
結局、この一言に全部が詰まってる気がします。
立ち止まってもいい、二歩下がってもいい。
ただ待っている。
相手を変えようとせず、理解して待ち続ける不器用な献身。
「つよがり」というタイトルでありながら、実は一番つよがっているのは、彼女を想って待ち続けている主人公の方なのかもしれません。