Mr.Children歌詞解釈記

ミスチルファン歴30年。

【B面の傑作】ミスチル「こんな風にひどく蒸し暑い日」 ──田原さんが「生理的に無理だ」と言った理由

ミスチルのカップリング曲の中でも、この曲はかなり異質です。

正直に言うと、ちょっと聴いてはいけないものを聴いた感じがする。

しかもこの曲、レコーディングのときに
田原健一さんが「生理的に無理だ」と言ったという逸話まである。

長年バンドのギターを支えてきた、あの穏やかな田原さんがです。

例えるなら、
居酒屋でずっと静かに枝豆を食べていた人が、急に立ち上がってこう言うようなもの。

「いや、この話題は本当にやめてください」

……何がそこまで嫌だったのか。

この曲を聴いていくと、だんだんわかってきます。

「エビバデ」という怪しい入口

曲はこんな掛け声から始まります。

エビバデ・クラップ・ユアー・ハンズ

一瞬、ライブ会場みたいなノリです。

でもこの感じ、どこか古い。昭和っぽい。

明るく騒いでいるようで、少し安っぽい。

そんな空気のまま、曲は突然急カーブします。

でもこんな風にひどく蒸し暑い日は
思い出してしまうんだ

ここで、空気が一気に変わる。

さっきまで騒がしい居酒屋だったのに、
気づいたらエアコンのないワンルームの記憶に引きずり込まれる。

この落差がすごい。

「卑猥な映画」というパワーワード

その日 記録的猛暑が僕らを襲ってきて
映画館に逃げ込んで卑猥な映画見た

この曲の核心は、たぶんここです。

「卑猥な映画」

この言葉、妙にリアルなんですよね。

高校生の頃友達と

「いや別に見たくないけどさ」
「まあ話のネタにさ」

とか言いながらレンタルするあの感じになんか似てる。

若い頃の、ちょっと背伸びした好奇心。
でも同時に、どこか恥ずかしい。

たった一言で、あの不器用な空気を呼び戻してしまう。

エアコンのない部屋

エアコンのない君の部屋で
ただ夢中になってた

ここでこの曲は、かなり危ないところに踏み込みます。

普通のラブソングって
「愛」とか「永遠」とか、綺麗な言葉で飾るじゃないですか。

でもこの曲は違う。

綺麗な編集を全部外して、ただ「そのまま」を出してくる。

恋愛映画だと思って見ていたら、突然ドキュメンタリーに変わる感じ。

ミスチルの曲としては、かなり大胆です。

シーツ事件

流れ出したモノでシーツが濡れてしまって
君はゴミでも捨てるように洗濯機に入れた

ここ、かなり生々しい。

しかも残酷なのは、その後です。

あれだけ夢中だったのに、終わった瞬間、シーツはただの「洗濯物」になる。

ガタン。

愛の余韻なんて1ミリもありません。

そこにあるのは、賢者タイムに訪れる圧倒的な「虚無」です。

突然の地球規模

キャスターは温暖化の深刻さ訴える

ここでスケールが急に変わる。

さっきまで
・汗
・シーツ
・ワンルーム

だったのに、突然

地球温暖化。

でもこの曲では、「蒸し暑さ」という一点で
全部がつながってしまう。

この発想、やっぱり普通じゃない。

今じゃ女房も子もある

忘れて過ごしてんだ
そんな光景は
今じゃ女房も子もある

ここで時間が一気に飛ぶ。

あの蒸し暑い部屋から、家庭を持つ現実へ。

頭では忘れている。

でも体は覚えている。

匂いとか、空気とか、湿度とか。

人間の記憶って、やたら執念深いんですよね。

有楽町の夜

有楽町で今夜ホステスさんと遊ぶよ
思い出したくないが思い出してしまうんだ

大人の街で遊んで、お酒も飲んで、
全部忘れたつもりなのに。

ふとした瞬間に、あの蒸し暑い部屋が戻ってくる。

後悔というより、心の奥に飼っている獣みたいなものです。

普段は静かだけど、ときどき檻をガンガン叩く。

 

なぜ田原さんは嫌がったのか

たぶん理由はシンプルです。

この曲がやっていることは、「一生隠し通すべき恥部」を最高音質で録音すること。

しかも、それをポップなメロディでやる。

田原さんが嫌がったのは、桜井さんのその残酷さに当てられたからじゃないか。

「そこまで見せなくていいよ」

そんな良心の声だったのかもしれません。

 

この曲の一番の毒

そしてこの曲、さらに厄介なのは
めちゃくちゃ楽しそうな音なんです。

ブラスが鳴って、ノリもいい。

陽気なのに、生々しい。

明るいのに、恥ずかしい。

この温度差こそが、この曲の毒。

だからこそ
ミスチルのB面の中でも、やたら記憶に残る曲になっている。

そしてたぶん、田原さんは最後まで思っていたはずです。

「……本当にこれ、録るの?」